ここでは2017年夏に行ったWFGリペアファクトリー大和潤平氏へのインタビューをご紹介します。
WFG:私たちは、日々一緒に仕事をしています。大和さんは2階、私たちWFGのスタッフは1階ですが、リペアの相談は日々ありますし、コミュニケーションもよくとっています。
大和さん:そうですね。改めてインタビューといっても、何か、こう、ピンと来ないのですが…(笑)
WFG:確かにそうですね(笑)ただ1つ、聞いているようで、なかなか聞けていないことがあります。それは、大和さんがどういった経緯で靴に携わる職業に就こうと思ったか?ということです。
大和さん:確かに、そういった話を突き詰めてお話したことは、あまりなかったですね。
WFG:どうして靴関係のお仕事をしようとお考えになったんですか?
大和さん:単純な理由ですが、好きだったからですね。
WFG:ストレートですね。
大和さん:ストレートですけど、それが今、こうやって出てくる思いですかね。実は、祖父が鞄職人で、小さいころから革に触れる機会が多かったんです。だったら、なんで鞄じゃないんだ?と思うんですけど、革繋がりで、革靴というものに物心つく頃から好きだったんです。刷り込みだったのかもしれないですね。よくある、靴を子供のころから分解していたとか、そんなカッコいいエピソードはありませんけど、こういった純粋な気持ちで、志したのは嘘ではありません。
WFG:それが直接のきっかけですか?
大和さん:いえ、これがそういうことでもなくて…。確かに好きでしたけど、自分の職業として、靴に携わりたいとは思っていなかったんです。今自分がこの場にいる決定的なきっかけは、大学生の時に訪れたんです。
WFG:職人としてのスタートは、イタリアで靴職人としての修行を積んだところからだそうですね?靴作りというと、イギリスのハンドメイドの靴から入るんじゃないかと思うんですが、なぜイタリアにしたんですか?しかも、大和さんはよくトリッカーズのカントリーブーツとかチャーチのシャノン履いてるんで、そっちのほうが好きなんじゃないかと思ってたんですけど笑
大和さん:イギリス靴はおっしゃる通り、好きですよ。確かにスタートはイタリアなんですけど、今はどちらかというとイギリス靴の方が好きかもしれないです。どちらも好きですけど… もともと、世界史が好きで、特にローマの歴史が好きだったんです。 そこで大学生の時にイタリアに短期留学したんです。 その時にたまたま見たのが、かの有名な靴職人、ロベルト・ウゴリーニの工房だったんです。
手製靴の雰囲気と手作業を目の当たりにして圧倒されました。その時が「決定的なきっかけ」ですね。 いつか自分もこういうところで靴を作ってみたいと思って、また必ずイタリアに来ようと思ったんです。 それで、いったん大学を卒業して、靴関係の営業の仕事を三年し、お金を貯めました。 そしてもう一度イタリアに行き、何の運命か、ウゴリーニ氏のもとで本格的な修行を開始したんです。
WFG:そうだったんですね。でも、ウゴリーニ氏はハンドメイドで靴を作る人ですよね?修理とは若干話が別になるのではないですか?
大和さん:イタリアで修行しているときは、ウゴリーニのところだけではなく、実はリペア職人の工房にも通っていました。ジャンニ・ディ・サリオという人のもとで修業していました。 長年リペア職人をやっている人で、古くからの顧客がいました。サリオのもとで、何十年と靴を直しながら靴を履く人達の姿と、靴を直して渡す職人の光景を見て、「いいな」と思ったんです。 いくら綺麗ごとを言っても、ハンドメイドの靴は値段が高い。履く人だって、限られますよね。そこで、もっと多くの靴に携わって、靴を通して人を喜ばせることができないか?と考えるようになっていきました。
WFG:それが靴の中で、リペア職人の道を選んだ理由だったんですね。
大和さん:そうですね。運命の分かれ道でしたね。
WFG:大和さんはイタリアでの修行を終えた後は、どのようなプランがあったのですか?
大和さん:靴修理を学び、靴修理職人とお客様のやり取りを日々見ているうちに、やはり靴修理の道へ進路を取ろうと決断しました。日本に帰ってきてからは、靴修理店で、より技術の研鑽に明け暮れていました。
WFG:どうしてWFGリペアファクトリーに来たのですか?
大和さん:イタリアで同じ時期にロベルト・ウゴリーニの元で靴作りをしていた仲間の紹介があったんです。その時ちょうどリペアファクトリーで人が辞めて、人員が空いていた時で。これも縁だと思い、リペアファクトリーに来たんです。2013年のことでした。
WFG:日々、いろんな靴が持ち込まれてくると思うのですが、何か仕事をする上で、大切にしていることはありますか?
大和さん:日々仕事をする上で大切にしている事…。難しいですね(笑) ただ、まず仕事として、綺麗になおすこと、元の靴の雰囲気を損なわないようにすることは当たり前ですよね。靴をナイフで傷つけたりしたら、取り返しがつきません。そういったことは念頭に置いて仕事をしています。
WFG:「当たり前」なのかもしれませんが、一切のミスが出来ないわけですよね。それは緊張しますね。お客様からお預かりしたものに傷はつけられません。
大和さん:いつも緊張してますよ。お客様の所有物ですから・・・。 私が日々大切にしていることは…。お返しするときに綺麗な状態でお渡しすることですね。 汚れを落として、靴クリームでツヤを出してからお渡しする。たとえばかかとの修理だけして、汚いまま渡されても、きっとお客様は喜ばないですよね。だから綺麗な状態でお渡しするように心がけてます。 塩吹きなどして、クリーニングの処置が必要な場合は、別途料金を頂きますが、リムーバーで汚れを落として綺麗になるものであれば、必ず綺麗にしています。
WFG:そういった心遣いが大和さんのファンが多い秘密なんですね。
大和さん:胸を張って言うようなレベルのことでもないんですけどね。自分の仕事で、お客様が少しでも気持ちが良くなってくれたら嬉しいですね。
WFG:大和さんが特に得意としている修理はありますか?
大和さん:ワールドフットウェアギャラリーではイタリア靴を多く扱っていますよね。イタリア靴に採用されている製法の多くはマッケイ製法です。アッパーと地面に直接触れる本底をまとめて縫い上げている製法です。シンプルな構造なので、靴のデザインがしやすく、副資材も余計に使わないために軽い靴になるのが特徴です。
雑誌を見るとマッケイの靴はオールソールがしにくい、1回しかできないために長持ちしないというのを目にしますが、あれは言いすぎだといつも感じています。マッケイの靴でもオールソールは可能です。
WFG:そうなんですね。最大何回くらい可能なんでしょうか?
大和さん:モノや状態にもよりますが、3~4回目のオールソールをしたこともありますよ。よっぽどのことが無い限りはオールソールが可能です。3~4回オールソールをするまでには、おそらく10年近くは履いているはずでしょうから、そういう意味でもマッケイの靴は十分長持ちする製法だと思います。 WFGリペアファクトリーでは、ワールドフットウェアギャラリーで扱っているマッケイ製法の靴が、直接修理に持ち込まれてきます。ですから他のリペアショップに比べて、マッケイ製法の靴のオールソールの回数もこなしているので、その修理には自信があります。 マッケイ製法の靴で、修理が不安な時は、ぜひお気軽にご相談ください。
もちろん、グッドイヤーウェルト製法の靴をはじめとして、その他の製法のお靴の修理も承っておりますので、こちらも併せてご相談いただければと思います。
WFG:1階の店舗のほうでも、マッケイの靴のオールソールのお問い合わせは多いです。いつも助かっています。ありがとうございます。日々、多くの靴を見ていると思いますが、お客様の靴を見て感じることはありますか?
大和さん:お客様の靴を見ると、もっと早くリペアに持ってきたら、より良い手当ができたりするのにと思うことはたくさんありますよ。 わかりやすい例は、踵の修理です。本来はラバーまでの第一層で交換するべきなのですが。土台であるレザーの層も削りきるほど履いていることがあります。そうすると、本来やる必要のない修理まで施さなければならない状態になります。補修代金も余計にかかってしまいます。踵の部分は削れ過ぎると、不安定になり、転倒してしまう恐れもあるデリケートな部分です。
靴修理のタイミング、製法に関してなど、わからないことがあれば、どんどん問い合わせて欲しいと思います。靴のことを知れば付き合い方もかわり、より良い靴との付き合いができるはず。
WFG:ありがとうございます。
大和さん:靴修理に関して、強い思い込みを持たずに、いろいろな可能性を考えていただくとより幅を広げて靴と向き合える、ということをお伝えしたいと思います。 例えば、ラバー半張りで通気性が損なわれることを気にする方がいて、ラバー半張りをしない人がいるのですが、ラバー半張りをすることによって、靴の本底を長持ちさせ、オールソールまでの寿命を延ばしたりすることもできるというメリットもあるんです。
また、「グッドイヤーウェルト製法の靴は何回でもオールソールが可能」とうたっている雑誌を良く見かけますが、あれもちょっと言いすぎだと思いますね。 確かに基本的には複数回オールソールは可能です。しかし、それも状況や仕様によって変わります。 例えば、グッドイヤーの靴でウェルトの部分が「メスステッチ」といって、糸の穴がどこにあるのかわからないようスマートに見せる縫い方をしている靴があります。しかし、リペア職人の私からすると、これが厄介なのです。「メスステッチ」のグッドイヤーの靴をオールソールするときは、糸の穴が目視できないので、元の穴を通して縫い込めません。結果、目測で縫い上げることになるので、ウェルトがズタズタになります。 そうなると、2回目のオールソールの時に、ウェルトが使い物にならなくなっていて、ウェルトの交換が必要な場合が出てきます。 グッドイヤーウェルトの靴は構造上、中底とウェルトが縫い込まれています。そのため、中底の損傷が激しいと、ウェルトの交換ができず、オールソールが難しい場合もあります 。
今回、私の言いたいことは、ラバー半張りをすることやグッドイヤーウェルト製法についての是非ではありません。 言いたいことは、1つの情報を鵜呑みにしないで、様々な選択肢を考えてと靴と付き合ってほしいということです。そうすれば、より靴修理の選択肢も増えますし、結果メンテナンスをしやすくなります。そしてきっとその靴がお客様の素敵なパートナーとなってくれると考えます。
WFGリペアファクトリーでは、そのお手伝いを誠心誠意させていただきます。靴の修理のことはもちろん、その他のことも含めて、どうぞお気軽にご相談ください。皆様のご来店お待ち申し上げております。
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