手縫いのUチップ

 スプリットトウ、エプロンフロントダービーと呼ばれる通称Uチップ。このところ、このスタイルの人気が急上昇中との話を多方面から聞きます。

 アッパーに表れるU字型の切り替えが特徴ですが、この切り替えは、靴のつくりの源流のひとつであるモカシン製法における必然的であり、そのデザインが現在にまで脈々と続いています。紳士の洋装が確立した1930年代には、Uチップは、ノルウィージャンシューズ呼ばれ、カントリーウェアをはじめとした、スーツではなくジャケット+パンツの組み合わせに合わせられました。1950年代のアメリカでブームが起きました。現在のUチップとは少し異なり、Uキャップとでも呼びたくなるようなデザインでしたが、スーツにUチップを合わせた写真がたくさん残っています。

 そして思えば1990年代は正にUチップの時代でした。スーツを着たサラリーマンのほとんどがUチップを履き、カジュアルな服装に合わせる靴としても最も人気のあるデザインだったと記憶しています。当時、20代後半の私は靴店(ワールド フットウェア ギャラリー)で働き始めたばかりで、毎日毎日、Uチップばかり販売していたのを懐かしく思い出します。


 ラバーソールでボリュームのあるつま先を持ったカジュアルなUチップ、スーツに合わせるドレッシーなUチップ、クラシコイタリアのブームで流行した幅の広いスクエア(チゼル)トウに角ばったUモカを乗せたUチップ、様々なタイプのUチップがありましたが、この写真(PERFETTO 税抜5万円 他にこげ茶、茶、スエード黒、スエード茶の全5色展開)のようなUチップは販売していませんでした。このタイプのUチップを買おうと思ったら、エドワードグリーン(もしくはエドワードグリーン製の他ブランド)しかなかったのです。

 何故このタイプのUチップが稀少なのか?それは手縫いでしか縫えないからです。既製靴というのは工場でつくられ、工場で働く人々は手作業をするにも、あくまで機械製の靴をつくるための手作業しかしません。「手で縫う」という工程は機械製靴には存在しないのです。結果、このタイプの靴を作ろうと思ったら、手縫いの外注に出さねばなりません。昔々、靴がすべて手で縫われていた頃を知るお年寄りに頼むのです。

 つまり、このタイプのUチップには、通常の靴製造のコスト+外注費が掛かり、他のデザインに比べて高価な値段が付くことがほとんどです。

 それでも、このタイプのU字型のモカが、数あるUチップの中でも最もドレッシーで上品だと思います。やはり手縫いでしか成しえない存在感があります。機械で縫おうとすると、絶対に必要となる「縫い代」。これがどうしてもカジュアル感を醸してしまうのです。

 この写真のモデルは、つま先を割っている部分をスキンステッチで縫い、U字型の部分をライトアングルステッチで縫うタイプで、結果的に手縫いでしか表現できない見た目を獲得しています。しかも、PERFETTOの工場には、珍しくも手縫いの熟練職人がいることで、他のデザインと同じ価格で販売されています。いまや海外の方々にも知れ渡り、この靴を見に来店される方が日に日に増えています。是非お手に取ってご覧ください。身につけるものにとって、「手づくり」であることの価値が最も素晴らしい価値なんだということを実感されることでしょう。

World Footwear Gallery Official BLOG

1979年の創業以来、世界中の本格靴を中心に皮革製品のご紹介を通し靴文化を始めとする細やかなライフスタイルのご提案に努めています。ここでは靴の魅力や役に立つ情報を配信予定。イベントや商品についての最新情報は公式HPをご覧ください。

0コメント

  • 1000 / 1000